[ 天寿を全うする ]
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相棒が逝った。
今朝、出勤前に様子を見に行ったら、転びながらも、必死に立ち上がろうとしていた。 その身はいつの間にか骨と皮だけと見まがうようなほど痩せこけ、「ああ、これはもう長くは無いな」と、死相を漂わせていた。
仕事から帰る数刻前まで、姉が家にいたらしい。 姉は結婚して家を出ているのだが、別件の用事と、母が相棒がもう長くないことを伝えたためにきたようだ。 その、姉が居た数刻前までは生きていたようだが、俺が家に帰り着き、相棒の小屋に行ったときには、既に息を引き取っていた。 おそらく、姉にも会えて、安心したのだろう。
小屋に居た相棒は、目は開いているものの、ぴくりとも動かず、触れても何の反応も示さない。 相棒は冷たい死肉に、物言わぬ屍になっていた。
人に思ったことを思うように言えない自分にとって、相談するなんてことはできず、ほとんどの事柄は自分の中で解決してきた。 ただ、あまりにもつらいことがあると、相棒に助けてもらっていた。 相棒に向かって話しかけ、答えを自分で得ていたのだ。 この世の中で唯一無二の人の社会から外れた場所に居た相棒。 俺に愛想尽かすことなく、時には辛く当たっても、自分を裏切ることの無かった相棒。
おやすみ、そしてお疲れ様。
そして、俺はまたもや悔いを残した。
今日は本当は早く帰ろうと思っていた。 だけど、残業をして帰ったのだ。
高校時代、友人が癌で死んだときも、お見舞いに誘われたときに受験が終わってから行くと断った。 まさかそんなに重くなっているとは知らなかったからだが、俺はここでとてつもない悔いを残した。
どんなに忙しくても、絶対に流されては行けない時がある。 俺はそれをまたもや見誤ったのだ。
今日残業したことにより、確かに作業は進んだ。 だがその数時間の差で、俺は相棒の今際の時に居られなかったのだ。
俺は、恐らくこの先も。
2003/11/17(Mon)
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