24.今日は何の日?

洞窟の奥の動きを最初に察知したのは軍曹であった。
「少佐! 前方に4体のボギー!」
「この地区を通るのは我が隊のみだ。味方であるはずが無かろう? バンデットだ。味方であればコールサインを送ってくるはずだ。」
入り口を見入る3機のドルドレイ。

「な、新しいVR反応! 味方は配置されてないはずだぞ!」
「見えた! ドルドレイがスカンクと交戦中! あのマークは・・・RNAだ!」
「なんだとぅ! ここは指定戦闘区域外だぞ!」
広場に出くわしたバトラー達は目の前に広がる状況に困惑した。
追跡していた二機の改造機と三機のドルドレイが対峙していたのである。
お洒落隊の出現に気を取られたRNA機に対して離脱を図るスガワ大佐。
しかしあっさりとボスコ軍曹に万力で捉えられる。

そのとき、堀中尉の隙を突いてゼーマン大尉がお洒落部隊にマシンガンを撃った。
自らに迫る火線に対してその脅威の源を沈黙させるべく、ほぼ反射的にマシンガンを撃ちかえすお洒落隊。

「なんだ? 様子がおかしいぞ?」
「これはいったい・・・少佐?」
「敵の敵は味方だと思うかね? 中尉。」
「識別が符合しない場合は全て敵です。」
「そのとおりだ中尉。全て撃破せよ!」
少佐がそう言い放った時、お洒落部隊の一機がスピーカーで呼びかけた。
「我々はそこの二機を追ってここにやってきた! その二機を引き渡してもらいたい!」

「あんなこと言ってますが少佐。」
「敵は6機だ。そいつに構わずとっとと撃破だ。我々の戦闘行動は見られてしまった。目撃者は、消せ・・・だ。」
その時、少佐はFF機の右手が掴んでるコンテナに気付いた。
ドリルをFF機に殴り付けようとする軍曹。
「待て! 軍曹!」
辛うじてFF機に叩き付けられる寸前でドリルを止めた軍曹。
「中尉、奴等の相手をしてやれ! 目の前のは放っておいていい、我々で何とかする。」

「その二機は街道の輸送車を襲撃した犯人だ! 我々に引き渡して欲しい! それにここは非戦闘区域だ! 早くその二機を」
堀中尉は、台詞を最後まで言わせはしなかった。
ドリル特攻で巨大な火の玉と化した堀機がバトラーたちを蹴散らす。
「うわぁ!」
転倒するバトラー。辛うじて避けた二機は交戦の意志が無い事を両手を挙げる事で示す。
だが、堀中尉は全く気にせずに襲い掛かる。

一方、筧少佐は、CR機を睨み付け、威嚇しつつFF機に向かってスピーカーで呼びか掛けた。
「降りろ。生ゴミの日だ。」
ボスコ軍曹が続く。
「ちょっとでも妙な真似してみやがれ! この、俺が!」
そう言ってドリルを高速回転させる軍曹。
依然万力はFF機を掴んでいる。
FF機は首を筧少佐の方に向けた。
「お前の持っているコンテナの中身は何だ? 命は助けてやるから早く出てくるんだ。」
その時、後方で一方的な狩りをする堀中尉を強烈な一撃が襲った。



25.あさぼらけ

「Z、そろそろ追いつくぞ。」
「ん、ああ。」
「どうした? やる気なさそうだな。」
「いや、敵さん、どんな奴かなぁと思ってな。」
「見てただろ? 改造VRだよ。腕もそこそこだろう。」
「いや、うちのが弱すぎただけじゃないのか?」
「言ってくれるね。まぁ、指揮官が紳士らしくなかったのが敗因かもな。」
「そうだな、指揮官によってその部隊の戦力が決まるからな。」
「腕利きのパイロットは、お前さんみたいに独り立ちするのが一番さ。前方にVR反応・・・あれ?
「どうした?」
「反応が9・・・うち4つがうちだ。」
「ほぅ、楽しそうじゃないか。」
Zは嬉しそうに笑って、掴んでいた手をサイファーから放し、同時にサーフィンラムを行った。

「待て! 我々はDNAではない! 敵ではないのだ! 我々はVR街道ぅわ!」
なおも説得しようとするバトラーをCD特攻で轢き倒す。
が、その直後激しい衝撃を受けた。
溜まらず転倒する堀機。
その堀機に向かって、攻撃をした主が言い放つ。
「我々はVR街道警備隊だ! ここでの戦闘行為は違法行為である! よって貴公等RNAは直ちに戦闘行為を停止する事を望む! さもなくば街道警備法 第13条に於いて、厳重処罰を行う!」
洞窟の広まったスペースにサーフィンラムで颯爽と登場した暁の紳士は、そう言いつつ状況を把握した。
お洒落部隊の残存機4機は転倒こそしているが、まだ動けるようである。
下手人二機のうち一機・・・通称スカンクはRNAに捕まっていた。
そしてもう一機は膠着状態にあった。
「おっと、これは失礼、双方ともに不幸な誤解があったようだ。貴公等は犯罪者を捕まえるのに協力してくれたのだな? ありがたくその好意を受け取る事にしよう。戦闘行為についてはもちろん不問だ。」
この呼びかけは一種の取り引きであった。
普通のRNA将校ならこの取り引きを一にも二も無く幸いとして受ける事だろう。だが、筧少佐は考えていた。
この街道沿いに我々の機関はない。ましてや物資を運ぶなど。
ならば、こいつの手にしてるコンテナには一体何が入ってるんだ?
DNA関連のものか?
ならばここで見す見す見逃す手はない・・・しかし、ここでの戦闘行為が外部に伝わった可能性も。
だが、目の前の動きに気付いた筧少佐はそれ以上考える事はできなかった。

街道警備隊とのやり取りに注意がそれた軍曹に気付かれないように、スガワ大佐はゆっくりとリニアガンを持ち上げ、軍曹機の腹に付けた。
「ボスコ・ヴィーッチ!」
筧少佐が叫んだ。
その瞬間、榴弾が0距離で射出された。
軍曹機は後ろに仰け反ったがFF機を掴んだ万力は離れない。
FF機は自分の撃った榴弾のダメージを受けながらもプラズマカノンからプラズマブレードを形成、万力の根元を断った。
そしてそのまま倒れ混むように背面グレネードを射出、マッハを越える速度で軍曹機に体当たりをかました。
「ボスコ・ヴィーッチ!」
ボスコ軍曹のドルドレイは反対側の壁に衝突し、そのままめり込んで行動不能となった。
FF機はドルドレイから離れると、そのままCR機を抱く形で後ろから取り付いた。
「大尉! 離脱する! 挙動を固定させろ!」
「え? そんないきなり」
「舌噛むなよぉ!」
大佐は大尉に構う事無くそう言うと、背面グレネードを射出し暁の紳士が降り立った位置とは逆側の洞窟へ、CR機を羽交い締めにしながら飛んで行った。

「逃さん!」
すかさず、飛んで行った二機をドリル特攻で追う筧少佐。
「堀中尉! お前にそこを任す! 必ず撃破してこい!」
堀中尉は後を追いかけようとしたバトラーの行く手を火炎放射で遮った。



26.in conpensation for huge-mode

ラディカルザッパーで強襲するテムジン。
しかしバスターライフルは難なく弾かれた。
「お洒落隊! 隙を見て奴等を追え。」
ドルドレイに対してナパームが乱れ飛ぶ。
敵の攻撃を全く意に返さず、突き進む堀中尉。
突然メガスピンドリルを仕掛け、バトラーたちに突っ込む。
バトラーはガードで耐える。
「ボスコ軍曹! ボスコ軍曹! 生きてるか?」
「・・・な・なんとか・・・」
「そのドルドレイは生きてるか?」
動かしてみる軍曹。
しかし、ドリルは動くものの、完全に壁に体が埋まってしまってるため、身動きが取れない。
「・・駄目・・す・・・生きて・・・・・ま・・・が、ドリ・・・以外死んだ・・・同然・・・す。・・・」
「ドリルで構わん、奴等を牽制しろ! 少佐に負担を掛けてはならん!」
「・・りょ・・・い・・・」

暁の紳士は背後から不意に飛んできたドリルを食らった事で堀中尉の火炎放射をまともに浴びてしまった。
「やるじゃないか。」
舌舐めずりをするZ。
起き上がると堀中尉にソードを切りつけた。
が、しかし堀中尉はそのソードを避けて逆に万力で殴り返す。
その万力はガードされる事を予想して繰り出されていた。
堀中尉は相手がガードしたらすかさず掴み、ドリルでぶん殴ろうと考えていた。
しかし暁の紳士はソードを避けられたと見るや、万力が当たらないようにダッシュし、堀中尉に対して0距離でライフルを撃った。
テムジンは転倒した堀中尉を前に、バトラー達に早く行けと手を振って合図を送った。
だが、その時異様な地響きが彼らを襲った。
その地響きの正体は、暁の紳士にドリルの不意打ちを食らわせた壁に埋まったボスコ軍曹機から発せられていた。
「?! しまった巨大化しようとしている! 誰か止め・・・いや、ここは任せて早く行け!」
出口に向かうお洒落部隊。
一方暁の紳士は巨大化を阻止せんが為に軍曹機に向かおうとした。
が、何かが足をがっちりと掴んだためにバランスを崩した。
見ると堀機のリモートクロウが、ガッチリと足を掴んでいた。
「猪口才な!」
Zは不安定な体制のまま軍曹機に向かってライフルを撃った。
しかし、弾は崩れてきた岩盤によってかき消されてしまった。
「しまった!」
これでは巨大化を止める手だてはない。
無事に巨大化した軍曹機は、巨大化の過程で壁が崩れたために、晴れて自由の身となった。
だが、ここが広場のようになっているとはいえ、所詮狭い洞窟内。
巨大化したドルドレイが満足に動けるスペースは全く無かった。

暁の紳士は堀中尉と格闘戦を繰り広げていた。
お互い近接攻撃を繰り出し、お互いガードする。
やがてその均衡も、暁の紳士の燕返しによって崩れ去る。
静観していた軍曹機がここぞとばかりに硬直の生じた暁の紳士に踏み付けを敢行する。
辛うじてガードした暁の紳士。だがその衝撃を吸収しきれず後ろに吹っ飛ぶ。
起き上がった堀中尉は、軍曹機の邪魔にならぬよう、地中に潜る。
「くそ!」
暁の紳士は舌打ちをした。
「このデカ物を相手にしながら、もぐらの相手もせなならんとはな。」
次の瞬間、軍曹機から巨大なドリルが振り下ろされる。
それを察知して避けた先に地面から炎が噴き出した。
堀中尉が地下から火炎放射を放ったのだ。
しかしこれも辛うじて避けると、軍曹機に兜割・・・もとい股間割を食らわした。
もちろん避けられるはずが無く、軍曹機は叩き切られた。
しかし倒れない。
それどころか再び踏みつけに来た。
暁の紳士は冷静にブリッツセイバーを展開、堀中尉が潜んでいるであろう地点に剣を突き立てた。
上空から巨大な足が襲い掛かる。
だが、足が踏んだのは剣のみで暁の紳士は辛うじて横にダイブしてこれを避けた。ソードは地中深くまで埋まり、地面の裂け目から火花が飛び出した。
手応え有り。
置き上がりざまに暁の紳士は、軍曹機の股間割で裂けた狭間めがけてパワーボムを投げつけた。
ボムが炸裂した瞬間、軍曹機の巨大化はその効力を失い、急激に萎んだ。
「不味い!」
巨大化したドルドレイによって押し上げられ、支えられていた岩盤がその支えを無くして落ちてくる。
暁の紳士は広場の入り口に走った。
だが、暁の紳士の行く手の地面が盛り上がり、中から堀中尉機が這い出してきた。
腹には暁の紳士が突きたてた赤いソードが突き刺さっている。
地面から這い出した堀中尉は、目前に迫るZに気付くとドリルを繰り出した。
しかし何もかもが緩慢で、Zはあっさりそれを避けつつ堀中尉機に突き刺さったソードに手を掛けるとサーフィンラムを放った。
横凪に真っ二つにされる堀中尉機。
落下してくる岩盤によって押しつぶされるボスコ軍曹機。
辛うじて広場から抜け出した暁の紳士、Zは後ろを振り返った。
岩盤は次々に落ちてくる。
もはや落盤により広場は封鎖された。
「追跡は不可能だな・・・」
「そうだな。優秀な掘削機でもあれば別だが・・・」
待機していたサイファーが応える。
「優秀な掘削機か、埋まっちまったぜ。」
Zが笑いながら応えた時、通路の洞窟にも亀裂が走り出す。
「っと、全速力で退避だ!」
暁の紳士は再びサイファーに掴まった。



27.タロスの武器庫

その場所に急行しろという命令が下されたのは5分前であった。
そこは、戦域指定範囲の外れにあった。

休暇返上の勤務に対する待遇が、不振な動きのある場所に急行して待ち構えろって、ここは出口に通じる洞窟じゃないか。
居るかも分からん敵を待ち伏せろだなんてどうかしている。
俺は本当は今日はドライブに出かける予定だったんだ。
久しぶりに、シビックで。

愛車と同じ黄色いバルタロスを駆るテツヤ少尉は不平を零していた。

戦域指定外の洞窟の中で大規模な振動が検知された。
って落盤か何かだろう・・・何に対してそんなに神経質になってんだか。
いくらRNAでも戦域指定外で戦闘など行うものか。
そもそも相手が居ない。
俺達はちゃんと法を守って戦域指定内で闘ってるんだ。
そんな思いとは裏腹に、バルタロスは所属不明機を捉えた。

「大佐、いよいよ戦場です。」
「そうだ。戦場に出たら、お前のオーバーライトウェポンが必要になってくる。」
「オーバーライトウェポン?」
「そう、オーバーライトウェポン、ブレインクラッカー。右肩の奴さ。」
「一体どんな武器なんですか?」
「実は今回の作戦はターゲットの機密書類を一般公開しちまうというのが本題なんだ。」
「一般公開?」
「そうだ。その為にはここを無事に抜け出さなきゃならん。」
黙って聞く大尉。
「それはそうと今回のローカル戦はバルシリーズが多数参戦している。もちろんそいつ等と鉢合わせしちまったら逃げ切るのは困難だな。だが、俺達にはそれを切りぬけるための秘密兵器がある。」
「それがこの武器なんですね? ・・・?! 大佐! 前方に何か居ます。」
「いいか、重要な事だ。場合によっちゃ早速そいつに使わなきゃならんかもしれない。お前が持ってる右肩の武器はな、ERLを、そう、簡単に言うと乗っ取ちまう事ができるんだ。」
「え? 乗っ取る?」
「そう、お前も元バル乗りなら多少なりとも知ってるだろ? ERLにIDがある事を。」
相槌をうつ大尉。
「そいつはな、そのIDを無効化しちまうんだ。」
「ということは、バル=ディクノンみたいに共有ERLになるって事ですか?」
「それとは少し違う。そのレーダーの有効範囲にあるERLをお前のIDで上書きしちまうんだ。つまり、有効範囲内において、全てのERLはお前の言う事を聞く。」
「で・でも大佐、一度に多くのERLの制御をする事は・・・」
「ははは、安心しろ、ERLを制御する機能は実装されていない。実は試験段階で事故を引き起こしてしまってな・・・。」
「ひょっとしてMYA大佐のバルセレス消失事件?」
大佐は罰が悪そうに応えた。
「ご名答。ERLのIDだけを上書きするはずが機体ごと上書きしちまったんだ。それも別の機体にな。そのためその機能は封印してある。だが、相手がERLをコントロールでき無いってだけでも十分な武器になる。」
「た・たしかに。しかし、なんて恐ろしい武器を・・・」
「俺達キティガイだもん♪」
大佐はお道化てみせた。
「大佐、そろそろ敵の姿が見え」
大尉がそう言った瞬間、横・正面・上、さまざまな方向から一遍に攻撃を受けた。
「なぁんだとぅ!」
思わず叫んだ大佐にミサイル、レーザー、マイン、ハンマーなどの攻撃がおそう。
「大佐ぁ! 敵は一機のはずなのに!」
そう、その攻撃はバランスよく編成された一個小隊以上の攻撃であった。
「いかん! 弁慶だ! まさか弁慶が待ち伏せしているとは!」
「なんですって!?」
「大尉! 早速だがブレインクラッカーを展開しろ!」
「はい! やってみます!」
弁慶=バルタロスはさまざまな形態のERLを使いこなす、拠点防衛にもっとも適したバルである。
だが、その攻撃力はERLに依存する。
背中に背負ったERL砲身ラックには様々な種類の付け替え式のERL砲身がたくさん詰まっている。
その砲身は多種多様で、グリスユニットのミサイルランチャー型から、近接専用の砲身もある。
それらは全て効果的に設置され、使用される。
つまり、バルタロス本体はERLの統率者に過ぎないわけである。
本体は、大出力のジェネレーターをつんで入るが、機敏とは言えない。
そしてこのジェネレーターを積んだが為に胸部ビーム発射口は無くなっていた。
もし、ERLを無効化できる夢の兵器が有れば、たちまちバルタロスはただの人形と化す事だろう。
無論通常のバル全てにそれは言える。
そしてここに、そんな夢の兵器があった。
仮にこの兵器が一般公開されても認可されないだろう。
そのような兵器はエンターテイメント性に欠けるからである。



28.五條大橋

「な・なんだ?」
突然ERLの制御ができなくなった。
一瞬トリガーは故障したのかと思ったが、どうもそうではないらしい。
新たにERLを射出する。
だが射出した瞬間に統制を失い待機状態になる。
「なんなんだこれは?」
どんどん敵機が近づいてくる。
トリガーを引く
『ERL's No Response』
との答えしか返ってこない。
「くそ! くそ!」
殺られる!
そう思った時、洞窟からもう一機、反応が。
これは明らかにRNAの反応だった。
テツヤ少尉は訳が分からなかった。
敵機だと思った二機のアファームドが自機の前で反転、洞窟に向かって攻撃を始めたのである。
洞窟から出てきたのはRNA所属のドルドレイだった。
目の前の二機は依然ボギー、だがRNAのドルドレイに向かって攻撃している・・・という事は味方か?
そうだ! そうに違いない!
一機のアファームドが離脱した。
そしてもう一機のアファームドがバルタロスの肩に手を掛ける。
直接回線で語り掛けてきた。
『弁慶、後はよろしく頼む。全て敵だ。』
その時、ERLの反応が戻ってきた。
ドルドレイはタロスの網の中に居る。
迷う事はなかった。

バルタロスが何故弁慶と呼ばれているか。
それは武装から呼ばれる物であったが、それを決定付けさせたのは戦い方においてである。
バルタロスはその機体特性上、拠点防衛任務に就く事が多く、しかも、敵機を一機も通す事が無かったのだ。
そのためこの機体が参戦するだけで視聴率も上がる。
皆、弁慶の通せんぼぶりを期待しているのである。
ちまたではトトカルチョも行われてるという。
用兵面において、これ一機で簡易要塞にもなりうる。
そんな機体である。
そして今、弁慶はいつも通りの働きをする。

ドルドレイがこんがりと焼き上がった頃、バトラー4機が彼の前に現れた。
中には良い動きをするのも居たが、結局このバトラーも、弁慶を突破する事はなかった。



29.新型の球根

ゼーマン大尉とスガワ大佐はシェルターのポイントに来ていた。
信じられない事に彼らはここまで敵に遭遇しなかったのだ。
だが、幸運は長続きしなかった。
上空から四条のレーザーが地上に降り、二機の行く手を遮った。
「何だ? 球根? 大佐!」
「ありゃぁ、新型の球根だ。こいつぁいいぞ。大尉、あれはクロガネ少尉のバルバスバウVだ!」
「じゃぁ、前線広報の?」
「そうだ・・・プランを一部変更する。彼に協力してもらおうか。」
「どうやって?」
「オーバーライトだ。彼に全国中継をやってもらう。」
「は? しかしカメラは操れないでしょ?」
「なに、やってやれないことはない。」
「え?」
大尉は理解できなかった。ブレインクラッカーが作用するのはERLだけのはずだが・・・。
「いくら私でも衛星カメラが戦場のどの地点を撮ってるかわからないものな。だからといってシェルターに入るまでに私らの姿が映されるのは非常にまずいことだよ。そう、まずいことだ。だから、そいつで私らのほうは写らないよう、ノイズが入るよう常時妨害電波を撒き散らしているんだ。」
「そんな機能も・・・。まぁいいでしょう。それで?」
「うん、捉えられた映像で不信なノイズがあれば当然そこに直接撮影班をまわすわな。」
「いや、新型の球根がここに来た訳じゃなくて・・・」
「まぁ待て、新型の球根は撮影班だと言ったろ? ではそのカメラはどこにある?」
「え? どこにあるんです?」
「機体の頭さ」
新型の球根ことバルバスバウVは、前線広報主査のクロガネ少尉の特注機である。
彼は下半身をバルバスバウの流用、そして上半身のバルという構成にした。
下半身上半身それぞれにVコンバーターを搭載したために機動力も安定している。
そして出力も当然ながらアップしている。
武装面では通常ERLが腕に一対、簡易ERLが上腕部に一対の通常簡易あわせて4門のERLに上半身と下半身に一対づつ4門のビーム射出腔を持っている。
そして、前線広報という特性上、生中継の映像をメインモニターから直接流せるという機能が付与されていた。
つまり、彼の機体はすべてのカメラよりも優先される目であり、中継機でもあった。
「彼がここに来たのは運命の悪戯なのだろう。彼の機体をオーバーライトして操れ!」
「だってその機能はないと!」
「リミッターは解除した。」
「はい?」
そう、ブレインクラッカーが実験中にMYA大佐の機体を次元の彼方に吹き飛ばしてしまった事で発覚した強力な副作用。機体自体のオーバーライト。これが密かに実装されており−この武器自体が秘密なのだが−スガワ大佐がキーコードを入力する事で発動させる事が許される。
そう、ファイアーフォックスとクリムゾンではマスターがファイアーフォックスでスレイブがクリムゾンになる。
フォワードという特性上、頭部をコマンダーユニットにして索敵能力を向上させてはいるが、所詮ファイアーフォックスの端末とも言える。
大佐はブレインクラッカーの特別禁止事項を解除した。
「さぁ、やってみろ! たぶん成功する・・・と思う」
「思うって!」
大尉の意思にかかわらずブレインクラッカーは発動した。
空中からレーザーを撃とうとしていた球根は、不意にその存在が不確実なものとなり、その像は歪んだり半透明になったりした。
「た・大佐! 失敗じゃ!」
「うーん、だめかも」
「だめかもじゃなーい!」
3BVは次元の果てに飛ばされるのか、それともこのフィールド自体が消滅してしまうのか・・・果たしてクロガネ機はゆっくりと降下し、そして停止した。
「大尉メインモニターを見てみろ。」
「はい。・・・あれ? 僕らが写ってる。」
「よし、成功だ。今からこのコンテナの中身を出す。ズームして中継しろ。」



30.雲隠れ

彼らはOAK病院に向かっていた。
「ああ、速い。僕たちきっと死ぬんだ。」
助手席から死にそうなくらい弱々しい声でしゃべるスガワ大佐に向かって運転してるゼーマン大尉が返す。
「マッハ5の機体を操る人が何言ってるんです。」
「俺は車はだめなんだよ。自分が運転してないと。」
大尉は溜息をついた。

あれから5日間が過ぎた。
彼らは巧みに地位を復帰させようと計画を立て、すでにスガワ大佐はその地位が復活している。
大佐は副官をスケープゴートにすることで地位を復活させた。
副官をスケープゴートに仕立てる際には何やら上の力が働いたとか働いてないとか。
とにかく副官が怪しいことをしてたのを幸いに復帰した。
そしてゼーマン大尉はこれからDNAに復帰する予定である。
手はずは次のとおり。
まず、F・グレ実験はDNAに明らかにされていないこと。
DNAでは彼はバーチャロン現象で入院中の取り扱いになっていること。
つまり彼がこっそりと入院していることになっている病室に戻り、偶然取材にきていたクルーが全快した彼を写すと言うものである。
これで安全に復帰という筋書きである。
書類上は嘘がないので彼らも手出しはできないだろう。

 5日前のローカル戦。中継を見ていた人たちは驚いた。
そしてその中継を知ったある人は怒り、ある人は慄き、そしてある人は保身について考えた。
そう、あの晩、テレビを見てた人たちは見慣れないアファームド系二機が画面に写った時、あの二機の武装を考え、これからおこる未知の戦闘に湧いた。
しかし次の瞬間、一機のアファームドがコンテナを開き中から紙の束を器用につかみ出し、そしてこれまた器用に地面に並べた。VRがつまむ事すら不可能に思える小さい紙を並べたのだ。これは驚異的な事である。
当然戦闘中に前代未聞の光景で広がったために人々は画面を食い入るようにして観た。
もちろんテレビ中継を担当していた人たちは他のカメラに回そうと試みたが、無駄なことであった。
やがてカメラがズームして書類が画面いっぱいに映し出された。
そこには『デルタエンド特性報告書』とあった。
機密書類と書かれ、書類作成元がどこに属するかも不明な『第11分室』となっていた。
その映像を見た観衆の疑問は、『第11分室』とはどこのことなのか? ということと、あのアファームドには誰が乗っているのかに向けられた。
当然上層部は色めきたった。
機密書類の流出、そのような研究が行われていたということに対しての糾弾。糾弾についてはは主にデルタエンドの仕様に関して公開されなかったことについて行われた。
そして『第11分室』の所属についてである。
『第11分室』はバルシリーズ開発局の所属ということになっていたが、当然切り捨てられた。
得意のトカゲの尻尾切りである。
当然宙ぶらりんとなった『第11分室』。
その存在はもはや否定できるものではなかった。
やがて、当日戦闘会場となった爆心地近くの森で、大規模な戦闘行為があったことが報告された。
普段は別の部門が扱うことなので、このような報告は入ってこないのだが、これまた規模が規模であったため入ってきた。
要約すると、機密書類を輸送していたと思われる輸送車が二機のアファームド系に襲われ、離脱した。そのためVR街道警備隊が出動し、戦闘をするも逃がしてしまった。
そして、森はナパームによって焼け野原となり、爆心地から森をつなぐ洞窟は崩落。地形が変わってしまった。
そして生存者の証言で、RNAが戦場指定区域外で戦闘行為を働いたことなどが明らかになった。
当然RNAの件は別として、この被害は全てこの街道区間担当である紳士連盟に言い渡された。
同時に警備隊から押収した画像により、輸送車を襲撃した二機のアファームドが、中継に現れた二機であることも確認された。
結局この二機がどこに雲隠れしたかわからなかった。
ローカル戦の中継画像は、一通り書類を写したあと、ファランクスで視界を遮られ、次の瞬間には何もない岩場しか写されていなかった。
当然クロガネ少尉を査問委員会に召還したが、少尉は機体制御ができなかったの一点張りであった。
機体に残ったログを証拠資料に押収して解析した結果、機体のIDが書類を写していた間だけ書き換えられていたことが判明した。
しかしそれがわかったところでそのような技術を持っているところはわからず終いであった。
もちろん、警備隊の戦闘記録に照らし合わせてそのアファームドを作ったところを探してみたが、私設の工場で作ったものか、出所不明のままだった。
結局、書類の出所がわかっている『第11分室』に責任が波及した。機密書類の輸送情報が漏れていた事に対するずさんな危機管理がである。
しかし、開発局はその存在を抹消したため、責任の追及が行えないというなんともおかしなことになった。
やがて上層部で話し合いが行われたのか、『第11分室』は芸人ギルドの所属となり、機密書類はやがて公開する予定だったということで落ち着いてしまった。
書類強奪の犯人もつかまらなかった以上どうしようもないし、犯人を捕まえることのできなかった紳士連盟は結局責任をとり、表面上は崩壊した。



★それぞれのその後

無事に帰還を果たしたゼーマン大尉は、DNAのバルチーム『芸人ギルド』が新しく保有することになった研究所の実験隊の隊長に任命された。
その名もOAK実験大隊。
彼がこの事件について納得の行く答えを見つけたかどうかは分からない。
少なくとも彼は今の身分に満足しているようだ。
その証拠といってはなんだが彼の率いる大隊は大きな実績を残していく。
F・グレ第二段階の発見も彼によるものだから、実験隊としての彼の功績は大きいだろう。

スガワ大佐(仮)は、前述通り再び支部長の座に返り咲いた。
もともと彼は秘密工作隊のR部隊に所属しており、いざと言う時はいつでも復帰できたようだ。
また、彼はセリカ工廠という兵器工廠を個人的に保有していた。例のアファームド二機もここで造られたのかもしれない。
かくして彼は再び勝手気侭なストライカーライフを送る日常に戻った。
そんな大佐の下に、一通の礼状が届いた。

『 スガワ大佐、今回は良くやってくれた。心から御礼を言う。
これで復讐の一端が晴れたし、無事に所属も変えることができた。
本当にありがとう。
何かのときは力になりたいと思う。
無邪気な研究者より 』

後にスガワは語る。この作戦の全貌を。そこで勝ち得た物は何だったのかを。

余談だが、崩壊した紳士連盟のエースパイロットの一人『暁の紳士』は、凄腕の傭兵として軍からも、視聴者からも絶大の人気を得ている。



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