16.落ち着け! ロシア語で考えるんだ!

「しまった!」
マチェットが突き刺さり速度が急激に落ちた。
ただでさえ、足が若干遅いのに、これでは・・・。もう、やるしかない!
「背面グレネード発射!」
大佐は叫んだ。
しかし何も起こらない。
もう一度、今度は念じてみる。
しかし、やはり何もおきない。
迫るバトラーの1機がついにトンファーを光らせ振りかぶる体制に入った!
「思考制御が働かない、畜生!」
そのとき、スガワ大佐の脳裏に技術仕官SATORUの言葉が蘇る。
"いいか、よく聞け、このファイアーフォックスはな、火器官制が一部思考でよってのみ制御されている。その昔、言語視野で思い浮かべたことを実行できるシステムを開発した国があってな、1機で全方位の敵を相手するのに楽になるよう載せてみたんだ。でな、思考制御するためにはその国の言葉で考えねばならん。いいか、一度しかいわないぞ? ロシア語で考える事、必ずロシア語で。"
「そうだ! ロシア語で考えるんだ!」
しかしそうは言っても普段ロシア語圏で生活しているわけではないので結構難しい。
トンファーがファイアーフォックスに迫る!
「落ち着け! ロシア語で考えるんだ!」
その時、ファイアーフォックスの肩部推進装置が閉じた。
「もらったぁ!」
その時、バトラーは勝利を確信した。それはテニスなど対戦相手のいるスポーツで感じる、打った瞬間にわかる手ごたえありの感覚に似ていた。
だが、彼にはその結末を見て取ることができなかった。

だれもが、獲ったと思ったその瞬間、突然爆風が広がり、トンファーを繰りだしていたバトラーは四散。そのすぐ近くにいて爆風に吹き飛ばされるもう1機のバトラー、そして恐ろしい勢いで前のめりになりながら遥か前方で転倒するファイアーフォックス。
お洒落部隊は何が起きたか理解できなかった。
それどころか、転倒したバトラーに足を引っ掛け、後続の2機までもが転倒した。
コマンダーは、呆然と立ち尽くし、帰還するマチェットをキャッチした。



17.Medium Range Balistic Missile

スガワ大佐の行動は早かった。
自分が転倒したことに気づくと、すばやく起き上がり、そのまま逃走を開始する。
コマンダーは正気に戻ると、すぐさま追撃を開始した。
コマンダーの後を、転倒しなかった2機のバトラーと、撲殺隊の生き残りが続く。
転倒したバトラーもすぐさま体制を立て直し、後に続く。
「何なんだ奴は!」
「あれは見せ掛けじゃなかったのか!」
「迂闊だった・・・ダミーにしちゃ重そうだしな、だが見たろ? やつはあれを撃つと転倒するんだ。だから今まで撃たなかったんだろうよ。」
「そう、撃たれるのがわかってれば射線をずらして迫ればいいんだ。」
「敵を討つぞ!」
復讐に燃えるお洒落隊。

「くっそぅ、ブースト発射のタイミングが掴めなかったぜ。だが、一作戦完全燃焼、次は失敗しない。」
大佐は背後に迫る敵軍を意識しつつ、大尉の後を追う。
その時、大佐は地面に写る、異様な影を発見した。
「なんだこれは? 大尉、私の上空に何がいる?」
「は? ・・・た・大佐! 巨大ミサイルが・・・」
なんと、先ほどグリスヴォックが無事に発射した一発のMRBMであった。
「そいつぁ好都合だ。大尉、そいつと俺がランデヴーするまでの時間を教えてくれ!」
「およそ5秒後です!」

「おい! あれ!」
バトラーの指し示す先に巨大ミサイルがあった。
「あの進路なら直撃しますよ!」
「いや、さっきの奴を撃たれでもしたら、奴は安全に爆風の向こう側に逃げるぞ。そうなれば差が開いてしまう。総員全速力!」
全機スピードを緩めずファイアーフォックスに迫る。
「3」
「2」
「1」
「NOW!」
スガワ大佐は再び背部ランチャーを撃った。但し今回は推進装置は開放したままだ。
その反動及びバックファイヤーが推進装置から排出される。発射の反動が効率的に加速に使用されるのだ。
だが、上半身にのみ急激な加速がかかるのでつんのめった状態で体制を崩す。
「そこだぁ!」
次の瞬間、腰部補助ブースター点火。
結果、肩と腰を加速させることで転倒せずに突き進む。
ファイアーフォックスからは衝撃波が幾重にもなって放たれる。

直後MRBMは着弾、爆発した。
その爆風に煽られながらコマンダーと3機のバトラーが辛うじて火柱から逃れる。
本来なら直撃だったはずだが、ファイアーフォックスの急激な加速が音速を超えたため、ジェットストリームがそこに生じ、それに巻き込まれ加速したのだろう。
この4機は運がよかった。
後続の3機は完全に爆風に遮られる形となった。
2機は爆発する寸前で散会、1機は急制動を掛けた。
散会したバトラーは火柱を擦れ擦れで避けたが、火柱の目前で急停止したバトラーは、ギリギリの位置で止まれたと思った瞬間、火柱の中に吸い込まれるようにして引き込まれてしまった。
ジェットストリームに巻き込まれてしまったのである。こちらは運が悪かったとしか言いようが無い。

「そんなこともできるのか・・・」
転倒せずに走り去るファイアーフォックスを見たコマンダーは漏らした。
「隊長、1機爆風に飲まれました!」
「悔やんでも仕方がない。撲殺隊の方、非常時だ。我が隊の一員として働いてくれるな?」
「何を今更。構わんよ、隊長殿。」
「よし、いくらか差がついたとはいえ、奴の足は遅い。すぐに追いつくぞ!」



18.スルー

ファイアーフォックスの通った後は、衝撃波で木々が倒されていた。
瞬間最高速度はハイパーソニック(マッハ5)に達するらしいが・・・。
ともかく、大佐は大尉の真後ろについていた。
「大佐、そんな能力があったのならなんで早く使わないんですか!」
「そんなに気軽に使える物じゃないんだ。実はこれは非常に繊細な技でな、躊躇ったのには二つ訳がある。まず、ブースターに点火するタイミングが分からなかったこと、そして負担がかかり過ぎるために使用制限があることだ。」
「使用制限というのは?」
「この攻撃は肩に非常に負担がかかるんだ。下手をすると二度とグレネードが撃てなくなっちまう。腕も動かなくなる。ルーズショルダーとか言ってたかな? だから使用制限もある。」
そう言いながら大佐は技術仕官SATORUの言葉を思い出した。
"いいか、こいつは一作戦完全燃焼の機体だ。だがこいつは肩に悩みを抱えちまってる。グレネードの威力が強すぎて肩が緩くなっちまうんだ。かといってそれに耐えうるランチャーを装備する余裕はない。これ以上の重量増加は作戦上良くないからな。30発だ。それを越えたら動作の保証はできん。最悪の場合、両腕がもげる可能性もある。そこのとこを注意して使ってくれ。補助ブースターの燃料は一応30回以上分入れておく。だが大事に使えよ。"
「この作戦は戦場に紛れ込むわけだからな。DNAもRNAも敵だ。いざという時のために弾薬はとっておかなければな。ましてや戦場に入るまでの行程で無駄遣いなどしておれん。」
「なるほど。自分のレーダーのような物もそう言った強烈な武器なのですか?」
「クリムゾンの装備しているそれは・・・そうだな・・・ある意味で最強の兵器だ。ただ正常に作動するかは分からん。だがまともに機能すればこれ以上の兵器はないだろう。公式戦では使えないがな・・・」
「まさか電磁波パルスを使った殺人兵器じゃ?」
「そっちの方が良かったか?」
「い・いえ(汗)」
「安心しろABC兵器ではない。ただ、まともに働かなかったらそれらよりも性質が悪いことは確かだが・・・。」
「じ・自爆の可能性は?」
「大尉、電気自動車が放電して乗っていた人が感電死する確率を知っているかね?」
「は?」
「そう言うことだ。」
その時後方で眩いオーラに包まれた三機のバトラーが接近するのに気付いた。

コマンダーの指示は簡単だった。
「バトラー三機は射程距離に入ったらそのままライダーキックで突撃しろ。スカンク野郎の射線に気を付けてな!」
「了解! Go!」
「良し、我々もハイパー化するぞ!」
「おう!」
コマンダーは後続の二機が追いつくのを待ってハイパー化した。

三機のバトラーのキック軌道はなかなかの物だった。
二機がFF機の両脇を、中央の一機が背面グレネードが当たらないよう上空から滑空してくる。
FF機は地上で避けようとした場合、どれかの特攻に当たることになる。
「大尉! 俺に向かってオーバーヘッドキックを! 早く!」
FF機は上空へ逃れる選択をした。
しかしそれをあらかじめ読んでいたコマンダー機。
「踏み台になれ!」
そう言うや否や若干先行するバトラーに俯角30度のライダーキックを当て、仰角30度の上昇ライダーを仕掛けた!
もう一機のバトラーもそれを真似て仰角45度のライダーを仕掛ける。
これで上空に逃れたFF機は、その機動力では逃れることはできなくなった。
が、
「シュートは任せた!」
大佐はそう言いつつ腰部補助ブースターを点火、それにより下半身が若干掬われた形となり、背面グレネードが下を向く。その瞬間、推進装置を閉じた状態で背面グレネードを発射した。
だが、グレネードはコマンダーの頭部を掠めて外れた。
「屠ったぞスカンクぅ!」
FF機は推進装置を閉じていた関係でものすごい勢いで前傾姿勢になる。腰部補助ブースターを併用していたが、効率的に加速に使うには使用するタイミングを合わせなければならない。
それに推進装置からエネルギーを排出しない場合、補助ブースターを使用してもそのエネルギーを生かしきれない。
結果、FF機はライダーキックを避けれない状態にある。
だがコマンダー機に予期せぬ事態が襲う。
FF機が仰け反った状態から一気にかがんだ状態になった、いわゆるヘディングをしたようにも見えるその瞬間、FF機の頭を掠めてパワーボムが飛来した。
コマンダー機はFF機と接触する直前にパワーボムの直撃を受けて粉砕された。
FF機も流石に爆風に飲まれたが、推進ベクトルが爆風の広がりと一緒であったため、たいしたダメージはない。それどころか下半身が煽られたため、正常な姿勢に戻った。
不幸なのは同時に上昇ライダーを仕掛けたバトラー機であった。
彼は成す術も無く爆風に突っ込んで行った。
踏み台にされたバトラーは突っ伏したままことの顛末を見届けた。



19.暁の紳士Z(ツェット)

しかしこれで大佐の危機が過ぎ去ったわけではない。
何しろ着地を獲ろうとハイパー化した三機のバトラーが待ち構えているのだ。
そこにゼーマン大尉がフォローに入る。
マシンガンをV字撃ちをしつつ最高火力のグレネードを放つ。
しかし、バトラーを囲うように放たれた牽制のマシンガンはハイパー化したバトラーには無意味であった。
それどころかその硬直を狙い、一機のバトラーが急行する。
「大尉! そのまま洞窟へ向かえ! 私もすぐに追いつく!」
大佐は下方で炸裂したグレネードの爆風の中で、こんどは推進装置を開放した状態で背面グレネードを発射した。
すかさず補助ブースターに点火。
ハイパーソニックで空中を突き進む。
下で待ち構えていたバトラー達にショックウェイブが襲う。
大尉に向かって行ったバトラーも含めて全て薙ぎ倒された。
「大佐、そんなに連発して大丈夫なのですか?」
「多分まずいと思う・・・。」
「・・・。」
大尉大佐の両機は再び洞窟めがけて遁走を始めた。
お洒落部隊残存機、バトラー4機。

時同じくして、街道警備隊詰め所から2機のVRが飛び立った。
それは二機で一機のVRとでも言うべきか。
モータースラッシャーにテムジンが吊り下げられていた。
紳士連盟は、サイファーの運用を偵察の他に輸送手段としても使用していた。
ただし、輸送できるのは当然ながら一機のサイファーにつき一機。
そのため、部隊単位での運用には向いていない。
それでも、緊急に遠隔地の増援が必要な時には重宝されている。
運ばれる増援は単騎であるが、その働きは一個中隊に匹敵する力を秘めたエースパイロットであるからだ。
今回飛び立ったテムジンは、紳士連盟に所属するエースパイロット、テムジン乗りのZ。通称『暁の紳士』。エースパイロットにのみ許される『紳士』の付く二つ名が与えられている。
通常『紳士』は部隊名に用いられることからもその力量は伺えるであろう。
彼を投入するなど紳士連盟も事態を重く見たということか。



20.突破

大尉大佐の両名は、なんとか洞窟が視認できるとこに来ていた。
だが依然としてバトラー四機は追いすがってくる。
「大尉、大尉」
「なんでしょう?」
「洞窟の入り口、両脇に何か潜んでいる可能性が高い。」
「両脇・・・ですか?」
「サイファーが先程先行したのは見たな? それとずっと偵察していた奴とを合わせて三機、どこかに潜んでいるはずなんだ。奴等は私達を足止めするのに十分な武装を持っている。」
「なるほど・・・」
「私が奴等なら、洞窟の中から私達が進入する瞬間を狙って三機が共にマルチレーザーを斉射するか、両脇から二機がレーザーを撃ち、バリケードにして、残る一機が回避したとこを狙う。他にも幾つか奇抜な作戦は有るが、確実性を重視するならこの二つだ。」
なるほど、これから進入しようとする穴の奥に敵が潜んでいたとすれば、それは確かに障害となる。何しろ洞窟の横幅はVR三機分、高さに至っては二機分ちょっとしかない。かといって可能性はそれだけにとどまらない。森は洞窟の直前で切れている。つまり、崖へと続く獣道と洞窟とを繋げる接点が開けているわけだ。ここなら両脇に配置してレーザーを撃つだけで十分通せんぼになる。 ただ、その場合は空中を上手く取られたら台無しになる。洞窟の高さが二機分ちょいしかないとは言え、それくらいの調整は可能だし・・・ならばやはり洞窟内で待ち構えるか?
待ち構えた場合ならレーザーを飛ばれて避けられてもフォースレーザーですぐに撃ち落とせる。
それか!?
考えをまとめた大佐はどう動くべきかを決めた。
「だが、安心しろ大尉。幸いにもこちら側にはそれに対して切りぬけることが出きるような武装がある。」
「?」
「待ち伏せってのはあらかじめばれてない事が前提なんだ。どんな罠が張られてるかばれた時から罠は罠じゃなくなる。待ち伏せはばれた瞬間からそれはただの障壁になるんだ。」
「しかし大佐、罠の仕掛けが分かったところでどうしようもない時もありますよ?」
「そうだ、だがこれはどうにでもできる仕掛けだ。用は攻撃が当たらなければいいんだからな。」
「それはそうですが・・・」
「ここで軍事教練をやるつもりはないぞ、大尉。」
「申し訳ありません。」
「とりあえず、どんな事態が起ころうとも一番柔軟に対応できる行動をする事だ。大尉、洞窟に向かって分裂弾を放て」
「了解。そのあとは?」
「あとはそのまま前進するのみだ、指揮官としての私を信用しろ。」
「りょ・了解!」

「いいか、No.2・No.3、目標が接近している。およそ5秒後にレーザーを放て。」
大尉・大佐機の真上、高空からサイファーは僚機に命令を出した。
「3・2・1・?!」
その時グレネードが洞窟の中に吸い込まれて行った。
そのグレネードに一瞬目を奪われた指令塔は、FF機がパワーボムを放ったのを見落とした。
「作戦開始!」
洞窟の入り口両脇に待機していたサイファーが同時にレーザーを放つ。
そして上空のサイファーもホーミングボムを放つ
しかし、それらの攻撃は全て徒労に終わり、洞窟入り口付近に三つの爆風が広がった。

一つ目の爆発、これはパワーボムが炸裂したのだが、ほぼ同時に待機していたサイファーはレーザーを放った。
当然の如くこのレーザーはボムの爆風に無効化された。
二つ目の爆風はプラズマボール。中空で炸裂した。
そして三つ目の爆発はこのプラズマボールの爆発で誘爆したサイファーのホーミングボムであった。

大尉機は無事洞窟に突入。洞窟内の安全は事前に撃ち込んだ分裂弾で確保されている。
大佐機は背面グレネードによる加速、洞窟内に追撃を加えようとするサイファー二機にすれ違いざまにプラズマレーザーとリニアガンによる榴弾を見舞った。
側面から強襲を食らったサイファーは一溜まりも無く、そして遅れてやってきたショックウェイブによって崖に叩き付けられた。
「ぐぉぉぉぉ!!!」
ファイアーフォックスに盛大な衝撃が襲う。
マッハを越える速度でいきなり狭い閉塞空間である洞窟に突入したのだ。流石にただでは済まない。
その体感速度は一気に倍加されるし、ものすごい衝撃にみまわれる。
それに舵取りを少し間違えただけで壁面に衝突してしまう。

「おのれぇ!」
着陸した指令塔のサイファー、すかさずレーザーを撃ち込んだ。
しかし、FF機の起こしたショックウェイブで洞窟の壁面が崩れ、その瓦礫がレーザーを無効化させた。
頑丈な岩盤でできてるらしく、崩れたとはいえ崩壊する気配はなかった。
逆上したサイファーはようやく到着したバトラーたちに先行して飛行形態で洞窟に進入した。



21.シェルター

「大佐! 成功です!」
「おぅ! これで後は追撃を振り払いながらここを突っ切るだけだ。だが機体を隠すためにはもう一仕事必要だぞ。」
「はい!」
「こいつを隠す地点はそいつに記憶させてある。C2マップを呼び出してみろ。」
「呼び出しました。」
大尉はコンソールパネルに呼び出されたカルデラ地形の地図をみた。
「そこが今ローカル戦を行っている戦場のマップだ。そのマップのF8の地点に注目しろ」
拡大する。
「いいか? その地点に窪地があるな?」
確かに窪地がある。
「その窪地には傍目からは分からないがシェルターがあるんだ。」
「シェルター? ですか?」
「そうだ。シェルターだ。カルデラ状になってるが、ここは火山ではない。かといって隕石が落下したわけでも、マグマが沈下してできた疑似クレーターでもない。元々は台地だったのだ。」
「では・・・いったい?」
「核攻撃だ。」
「核攻撃?」
「そう、ここは遥か昔・・・そうだな、まだ西暦が用いられていた時代だ。企業国家になる前と言おうか。とある国の軍事施設があったのだ。」
「そこが核攻撃を食らって・・・このような大きな穴を・・・地上に穿った・・・と?」
「そうだ。その軍事施設はなかなかの拠点だったらしくてな。地下シェルターが深くに作られていた。このシェルターを設計した人は相当な腕利きだったのだろう。シェルターは破壊されなかった。私のとこにも欲しいくらい優秀な設計士だ。」
「ではそのシェルターが当時のまま残っているわけですか?」
「そうだ。ただ、シェルターを塞ぐ扉は壊れてしまっていてな、扉からシェルター内部に通じる坑道が途中まで瓦礫で埋まっていたよ。破壊は内部からだったから、きっと避難した人たちが地上に出るために爆破したのだろう。もっともそんな爆破では扉は開かんがね。何しろ核兵器の爆破エネルギーにも耐えた扉だ。もっとも故障はして開かなくなってしまったようだがね。」
「そこまで知っているという事は内部を・・・」
「そうだ、扉と一部の内部を改修した。現代技術の粋を凝らしたからな、最新鋭の探知器を使われない限りそのシェルターの位置を特定できん。」
「衛星で透視されてもですか?」
「あそこは天然の要害だ。あの土地を選んだ人はとても優れていたのだろう。この地層の鉱物が電波を乱反射させてしまい、通常の観測機では内部の構造が見えないのだよ。」
「凄い! ですが、戦闘中という事は生中継されているわけですよね? それに目撃されたら・・・」
「そうだ。そうならないように大尉の装備が重要になってくる。」

ピシュン チュチュチュチュン

突然後ろからフォースレーザーとバルカンが強襲した。
「?!」
飛行形態のサイファーであった。
後ろにはバトラーたちが続く。
大佐は舌打ちをした。
「しつこい奴は嫌われるぜ! 大尉、歴史の勉強はまた後だ。お前はそのまま進め! ここは私の機体の独壇場だ!」
「了解!」
「こいつが今回の作戦のために作られた特注機だという事を思い知らせてやる!」
大佐は若干速度を落としてクリムゾンとの距離をとった。



22.局地戦! 殿(シンガリ)専用VR! ファイアーフォックス!

「おい、高みの見物隊! 前に出過ぎているぞ!」
「うるさい! あれだけコケにされて黙ってられるか!」
「しかし奴の性能は分かっているだろ! 協力しろ!」
「奴の上をとれば問題ないだろ! それよりもお前等今度こそチャンスをふいにするな!」
バトラーは処置無しと考えたのか、FFの背面グレネードの射線から外れるように両脇に二機づつの隊列を整えた。
サイファーは天井擦れ擦れからバルカンを垂れ流している。

「落石注意って知ってるか? ひとつ警告してやる。上から来るぞ! 気を付けろョ!」
大佐はリニアガンを天井に向け、走りながら連射した。
「な!? うぁ!」
モータスラッシャーモードのサイファーに容赦無く落石が降りかかる。
当然避けられるはずも無い。
時々岩盤ごと天井が崩れる。

「見物隊! 飛行形態を解除しろ!」
「うぉぉぉぉ!!」
サイファーはそのままSLCモードを発動!
「だめだ! 自分を見失ってる!」
サイファーはそのままFF機に迫る!
が、それは同時にFF機の背面グレネードの射線でもあった。
「このスカンクやろ・・ぉ・・」
最後の断末魔の瞬間まで、高みの見物隊最後の生き残りは、憎悪の炎に包まれ、そして炭屑となった。
FF機はそのまま超音速で走り去り、音速を超えた事により生じる衝撃波で再び洞窟内は崩れる。
砕け散ったサイファーは同時に坑道に転がり、そしてそのまま障害物となった。
後続のバトラーはこのサイファーに躓いて転倒。
が、うち一機はそのまま転がりながらリカバー。
空気の渦に吸込まれるように体勢を立て直しながらライダーキックを放つ。
なかなかいいパイロットが搭乗しているようだ。
ジェットストリームに巻き込まれ、通常の倍以上の速度で飛来するライダー。
だがFF機には到達しなかった。
転倒したバトラーもすばやく置き上がり、すぐさま追撃を再開した。

一方、距離を離した大佐は、プラズマキャノンから大光球を放った。
大光球は洞窟内を覆うような大きさであった。
「せいぜい通せんぼしていてくれよ」
大佐はそのまま大尉の後を追った。

転倒しなかったバトラーは、大光球を前にして停止した。
後続のバトラーも順次追いつく。
だが手の出しようが無かった。
こいつの破壊力は学習済みだ。
「下がっていろ。」
「しかし落盤したら・・・」
「いずれ破裂する。任務を放棄するのか?」
「いや・・・」
「だったら早い方がいい。」
僚機のバトラーが十分下がったのを見て取ってから、一機のバトラーが大光球に向かってソニックリングを放った。
ソニックリングが大光球に触れた瞬間、洞窟内に大爆発が起こった。
しかし火薬の爆発と違い、爆炎が洞窟内を駆け巡る事はなかった。
このプラズマエネルギーの固まりは岩盤を蒸発させた。
洞窟内をそのまま抉ったのだ。
「くそ! 追撃開始!」
高温の蒸気にアーマーを熔かされながら、溶岩に触れないようバトラー4機は追跡を再開した。



23.ディグ・ダグ・ドリラー

過ぎ去った戦場に於いて、残るのは惨めな敗北だ。
敗北、それ即ち死。勝利、それ即ち生。
この業界で勝ち残るには、それなりの腕と類希なる感と判断力、そして運が必要だ。
敗者はこの総合力で勝者に負けたのだ。
俺は、そうはならない。なぜなら俺は勝利者になるための必要な要素を持っているからだ。
暁の紳士は眼下に広がる無残な敗北を眺めながら洞窟に突入した。
運搬用のサイファーは天井擦れ擦れを飛行する。
「酷いもんだな。」
「まったく。」
洞窟内はとても荒れていた。
まるで何かに引き裂かれたように。
「敵さん、超音速で移動する奴が居たな?」
「ああ、居た。」
「無茶をする。」
暁の紳士は鼻で笑った。

一方、疾走する二機。
「大佐! 凄いです! 追撃隊との距離がだいぶ離れたようです!」
「そのためだけに作られたような機体だからな。大尉、あと数キロで戦場だ。決して気を抜くなよ!」
「はい!」
洞窟は所々幅が広くなっている部分があった。
まるでちょっとしたスペースだ。
大尉がそうしたスペースに出た時、前方からマイクロハリケーンウェイブが照射された。
「な! 退避ぃ!」
CR機は辛うじて逃れたが、FF機は逃れる事ができずにスタン。
同時に巨大な炎の固まりがものすごい勢いで迫った。
大佐は機体をすばやくリカバー。
辛うじてガード姿勢でその火の玉を受けた。
しかし衝撃を逃しきれず転倒した。
「大佐ぁ!」
FF機の方を気に掛け振り向こうとした時、CR機を火炎の濁流が襲った。
「ぐわ!」
CR機溜まらず転倒した。
巧みな連携でゼーマン大尉・スガワ大佐の行く手を遮ったのは三機のドルドレイだった。

彼らはRNA側の部隊として、現在行われているローカル戦の特殊任務に就いていた。
当然この洞窟内は非戦闘区域である。
彼らは岩盤を掘削して突き進み、敵本陣を裏手から強襲するというルール擦れ擦れなのか、抵触するのかという微妙なラインの作戦を敢行中であった。
しかし彼らは現に非戦闘区域で戦闘を仕掛けてしまった。
ただ彼らが攻撃を仕掛けた相手は正規の軍でもなければ今回参戦予定の部隊でもなかった。
この場合ははたして・・・?

「中尉、これは明確な違法行為じゃありません?」
「この地域を通るのは我が隊だけのはずだ。それに我が軍の識別信号が出てなかったんだ。敵だろう? ならば奴等も違法行為をしていた事になる。」
「堀中尉の言うとおりだ、ならばここで叩き潰しても訴えられはしまい。そうだろう? ボスコ軍曹。」
「は! 筧少佐!」
「ということだ。徹底的にやれ、軍曹!」
「了解中尉!」
三機のドルドレイは追い討ちを仕掛けようとFF機、CR機ににじり寄った。

「大佐、スガワ大佐。こいつらは一体・・・」
「RNAだ。奴等こんな所で何かしてやがったんだ。こんなのに構ってる暇はないぞ。」
「しかし分が悪い気が・・・」
「弱気では何もできんぞ。いずれにせよこいつらは無事に通してくれそうに無い。」
「やるしかないか。」
「どうやら二機は私の相手をしてくれるようだ。良かったな大尉。隙を見て援護してくれ。」
苦笑いを浮かべながら大佐はFF機を起こした。



24へ


目次へ