長い始まりの幕引き
後日、病院で待機するゼーマン大尉の下に一通の匿名文書が届けられた。
以下はグラシャル伍長が、ゼーマン大尉から託された匿名文書の一部である。
内容の異常さから身の危険を感じ、伍長が自らの安全を確保するために一般公開した物である。
なお、彼は厳しい軍罰を受けたとの事だが、詳細は分かっていない。少なくとも命は保証されたようである。
文章が一部欠落しているが、渡された時にはすでに無かったと本人は供述している。
『F・グレの仕様について』
F・グレは、MSBSの弾数の制限機構によって起こるものであり、本来フリーズを起こしかねないものであった。
フリーズが起きなかった原因として、相手方の「32'OBJECT」が誤作動する要因ともなった偽のオブジェクト情報があったことがあげられる。
これは本来のオブジェクトではないため、「32'OBJECT」は正常に働くことができず、グレネードを発射する瞬間にその機能を止めようとするが、結局その弾丸は発射されることになるわけだ。
セイフティーが完全に働かなかったからだな。
つまり相手側としては止まって当然の攻撃が見事に発射されるために発射時の爆炎をグレネードに付随させながら処理するのだ。
結局モニター上でのグレネードのグラフィック自体は発射時のまま変わっていないということになる。
半フリーズとでも云うかな。
そのため発射時に爆炎を伴わないダッシュ時のグレネードなどは普段どおりだ。
これはあくまで相手側のソフト上での出来事だから、相手側でのみ起こりえる。
いわゆるソフトの勘違いという奴だ。
ちなみに偽オブジェクトが現れるのはCW使用時で、それを使用していないときは偽オブジェクトは認識されない。
いきなりこんな文章を送り付けられて目を白黒させている事だろうね。
なぜこんな文章を君に送ったかというとね、《一部欠落》尉。
決して彼らの思いどおりにはさせたくなかったからだ。
私がこんなことをするのは、Ver5.2のおり、システムが不完全であったがために、次々と消えていった同胞達、そしてそのことについて一切の謝罪がなかったからだ。
我々が決起する日は近い。
このことを伝えたくてね。
君はこっち側の人間だと信じている。
ところで、この文章を読んだ時点で君は反逆者だ。
実を言うとこの文章の内容は極秘扱の物に相当するからな。
文章の処分は考えて行った方が良いだろう。
君がどうするかは任せるが、気が向いたらここにアクセスしてみることだ。
《引き千切られた後》
この文章を読んだ後、ゼーマン大尉がどういう行動に出たか、今は誰にもわからない。
ただ一つ言える事はF・G現象が解明されたにもかかわらず、名目上彼は病院に入院したままになっているということだ。
もっとも彼がその病院に実際に居るかどうかは不明であるが、病院側では、グラシャル伍長は強い妄想癖を持っており、ゼーマン大尉は重度のバーチャロン障害に陥っていて面会謝絶だと説明している。
また、MSBSが修復されたという話も聞かない。やはり通常の戦闘において遭遇することが希であると判断された事と資金繰りが厳しい事がその理由であろう。
以下に寄せられたのは後に一般公開される事となった『ファイヤーグレネード現象』の正式報告書である。
現象最終報告書
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