『調査日誌』

7月24日
私達はまず、F・グレ現象の再現性から検証に入ることにした。
再現できない事には始まらない。
とりあえず押収した戦闘記録から、F・グレ現象を起こしたSTは総じて、ブービートラップである設置型グレネード、通称置きグレの使用回数が突出している事が判明した。
このことから置きグレに原因が有ると睨み、そこを重点的に調査をする事に方針が決まった。

ゼーマン大尉にとにかく置きグレを使用するように命令。
40発ぐらい使用させてから通常グレネードを使用させたが何も起こらなかった。
ここで我々は問題の再検討に迫られた。



7月25日
会議の席で、問題の記録を洗いなおしたところ。F・グレを目撃したのがいずれもパイロットのみであるという事実に着目した。
査察を行ったとき、これは画像を改竄した物ではないかと言う点で取りざたされ、調査もその一点に絞られていたため、この事実を考慮することを見落としていたのだ。
我々は対戦でしか現れない現象と睨み、急遽RNAよりST一機徴収した。



7月26日
RNAより要求通りのSTが届く。
本部からも申請していたもう一人のパイロット、ウォール・フランドル特務曹長が到着する。
実験を再開。
再びゼーマン大尉に置きグレを大量に使用するように命令。
すると置きグレを20数発使用したところで、記録をとるためだけに出撃していたRNA側のSTに異変が起きた。RNAのSTに搭乗していたウォール特務曹長が失神してしまったのだ。
パイロットの安全を考慮し、実験を中止した。
尚、ウォール特務曹長の搭乗していたSTは精密検査の結果、警告音を鳴らすスピーカーが故障していた事が判明した。
念のためモニターの記録を再生してみたところ。置きグレが25発あたりになったところで高周波と高周波、低周波と低周波がそれぞれ交互ににぶつかり合って発生するノイズが記録された。
これはF・グレ現象が起きているときにも確認された現象である。もし実験が続行されていればF・グレの再現は成功であったかもしれない。
正確な個数が分からなかった理由としてこのモニターを再生した機器が故障したことと、そのとき直にこの音を聞いた研究員が失神してしまったことを追記しておこう。



7月27日
一日で御釈迦にしてしまったウォール特務曹長の変わりにグラシャル・ホッパー伍長を徴収。
これについては色々と嫌味を言われたが仕方の無い事である。
パイロット負傷の原因が超音波にあるとわかった今、彼には特殊なヘルメットを被って貰っている。
再度ゼーマン大尉に同じ実験を行ってもらう。
ただし、20発目からは置きグレ一発に尽き通常グレネードを撃ってもらうことにした。
相変わらず客観的に見た場合には何の変化もなかったが、グラシャル伍長が成功という打診をしてきた。
実験終了後、グラシャル伍長の搭乗したSTのメインモニターを再生することで実験の成功が確認された。
余談だが昨日の失敗を生かし、余計な周波数をカットして再生は行われた。
これ以上人員が減る事は敵わない。
結果、置きグレを25発置いた段階でF・グレ現象が確認された。
激しいノイズとともに炎を撒き散らして飛来するグレネード、ファイヤーグレネードを確認したのである。
このF・グレ現象は一度起きるとその戦闘が終了するまで継続されることも確認された。



7月28日
今度はゼーマン大尉がRNA側のSTに搭乗し、グラシャル伍長がDNA側のSTに搭乗して実験を行った。
結果、昨日と同じ結果が得られた。
さらにグラシャル伍長にも大量の置きグレを使用してもらい、F・グレ現象を起こしてもらう。
慣れないSTの操作のためか、多少ぎこちなかったが、F・グレ現象を引き起こす事ができた。これにより、F・グレ現象はDNA・RNAのST、またパイロットを問わず引き起こす事ができる、MSBSVer5.66に起因するバグであることがわかった。
このことを報告、公開実験を行う日取りを二日後に決定する。



7月29日
ゼーマン大尉に一日休暇を与える。
ゼーマン大尉・グラシャル伍長及び、ウォール特務曹長の昇進を申請する。
同時に調査書の作成に入る。

F・G現象中間報告所


7月30日
本日は公開実験である。
しかし、本部の上の者と一部のフレッシュリフォーの高級官僚しか来ていない。
DNA側、RNA側それぞれのSTでF・グレ現象を引き起こす実験を行った。
グラシャル伍長が緊張のためか操作ミスを犯し、置きグレに当たってしまうという失態をやらかしたほかは、特に滞りなくF・グレ現象を引き起こすことができた。
しかし、F・グレ発動数は33であった。
尚、当実験隊は秘密であるためその功績は認められず、ゼーマン大尉及びグラシャル伍長の昇進の申請を取り下げることになった。

同日、本部からの意向で、当調査部隊は第8プラントVR開発局指揮下の第11分室の実験大隊に再編成された。

第11分室では独自の調査で置きグレが30発以降でようやくF・グレ現象が引き起こされたという記録を持っていた。この分室にはいろいろなバグ関連の資料が豊富ということもあり、判断を委ねる事になったのだ。
当調査隊の記録と今までの事象を照合するようだ。



7月31日
待機命令の他、特に行動は無し。
暇なので自分の考えをまとめてみる。あくまで私見であるが。

F・グレ騒動は当初両陣営より抗議がきたことに端を発する。
この両陣営から前後するように抗議がきたという点が曲者で、一緒に添えられた証拠画像など資料はお互い酷似していた。
しかし公式戦の記録は当方ももちろん所持しており、証拠画像とは異なる画像であった。
これにより、DNAとRNAが情報戦を行っているのではないかという意見がでた。
だが、人的被害の事実は捻じ曲げられるものではない。DNAはともかく、RNAはただでさえ人手不足なのだから、情報戦とはいえ貴重なパイロットを入院させたりはしないだろう。
では、どちらかが最初に改造を行い、その攻撃を受けた側が機体を鹵獲して同じ改造を施したのか?
それとも本当に画像を改竄しているのか?
我々が査察を行ったのは確かに何らかのアクションを示さねばならないという上の意向もあるが、事実不正が行われた可能性があり、実際に重点的に調査すべき点もあった。
だが、MSBSの欠陥であるという点が立証された今、改めて考え直すと、新規のMSBS導入後、両陣営から多少の前後はあったもののこぞって抗議がきたということは、MSBSの異常である可能性にその時点で気づいていてもおかしくはないはずだ。
しかし、気づかなかった。
ひょっとしたら我々自体、情報操作されていたのではなかろうか?
MSBSシリーズは今やフレッシュリフォーが独占的に開発を執り行っており、それを一般普及させるために当公司が検査をした上で認可をしている。
つまりMSBSに欠陥などありはしないという自信があった・・・いや、むしろ欠陥が見つかった場合、認可した公司にも責任が波及する。
そのことに上は気づいていた。
査察時に余計な資料を押収させ、攪乱し、その間に真相を解明し、欠陥を治したMSBSをさりげなく普及させる。
MSBSの新規換装が完了してない現時点では十分可能だ。
そして、我が隊はほとんど原因の解明は完了したと言ってもいい。
発動までに微妙な差異は見受けられたが再現できたし、いろいろとデータを集めることにも成功した。
これ以上何を調査せよと言うのだろう? 厳密なとこまで調査せよというのであればこの待機にどんな意味があるのだろう? もし私の考えが正しければ、このままMSBSは人知れず治るだろう。
ではその事実を、MSBSの欠陥という事実を知る我々はどうなるのだろうか?
少なくとも私は本部直属の人間だから口封じをされることはあるまい。
問題は出向社員だ。借りた研究員や徴収されたパイロットなどは、会社の意向など関係ないだろう。
と、いうことは・・・。



8月1日
入院していたウォール特務曹長が退院する。
昨日に引き続き待機命令。
私の考えは間違っていると切に願いたい。



8月2日
上層部の方で何か動きが在ったようだが、こちらには何も情報が入ってこない。
ふと思ったのだが、いくら私が本部の人間だからといって、機密を知られたままで放っておくだろうか?
あまり考えたくない。
引き続き待機命令。



8月3日
ゼーマン大尉他数名がリフレッシュのために出した外出届が却下される。
そして厳重な待機命令が言い渡される。
いつもと様子が違うようだ。やはり・・・



8月4日
本部と連絡をとろうとするが、近くで戦闘が行われているらしく、無線封鎖のため連絡がとれず。
外界との連絡手段が閉ざされたため、いよいよ持って不安になる。
命令通知が来ないので引き続き待機。



8月5日
一通の書簡が届く。
翌日無線封鎖が解かれること、そして実験の準備をしておくようにとの旨であった。
皆に実験の準備をするように指示し、私も準備を手伝った。
余計なことを考えるよりも、体を動かしていたほうが気が紛れる。



8月6日
六日間の待機後、実験の指令が降りる。
指令内容は『置きグレだけを撃ち、その個数をきちんと見極める事』
極めて当然な事であったが・・・。
ゼーマン大尉には連続して失敗しないで置きグレを置く事を、グラシャル伍長にはその個数をしっかりと数える事を通達。
結果、置きグレ33発目でF・グレ現象発動。
これを第11分室に報告した。
直後、室長から直々に労いの言葉を受け、この実験の終了を告げられた。
結局F・グレ現象はなぜ起こるのかなどの詳細を質問しようかと思ったが、それを許さないような勢いがあり、同時に回線も早々に切られたためにその機会を永久に失した。同時にゼーマン大尉及びグラシャル・ホッパー伍長に対する特別手当の請求をするきっかけも失われてしまった。結局ウォール・フランドル特務曹長にのみ見舞金が贈られる事となった。

尚、今回の実験でゼーマン大尉は置きグレを500発以上を使用。
本人は、大量の置きグレ連続使用は精神的にかなりの負荷もたらしたとし、慰謝料を請求するとか息巻いていたが、「今回使用した置きグレの弾薬費は君の給料の5年分に相当する」という、なんとも支離滅裂な理由から却下されたうえ、ただの実験に必要以上の弾薬を消費したとして弾薬費を請求するとまで脅されたそうだ。
却下されるのは当然とはいえ、なんと乱暴な言い分だろう。
そして、彼らはこれからどうなるのだろう?
私はというとOAK病院の近くに新設されたP&D兵器工廠の工廠長に任命された。
栄転とも言えるが、本部への復帰が閉ざされたため、複雑な気分である。
だが、この処分はまだいいほうかもしれない。
果たしてこの調査隊にかかわった彼らはいったいどうなるのであろうか?
とりあえずOAK病院に一時的移送されるそうだが・・・
心配をしても仕方のないことかもしれない。
以上を持って14日間にわたった調査の記録を終える。


F・グレ究明隊隊長 愉 癒兎 少佐


幕開けの終わり